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TAD TSM-2201LR 音質 試聴 評価 テスト
国産オーディオのトップブランドTADから昨年業務用の小型スピーカーが発売された。情報入手が遅れたため音質テストが発売から約半年後になってしまったことを、まずお詫びしたい。
TSM-2201-LRを目にしたとき、業務用/TADというイメージからペアで30万は下らないと想像した。しかし、それは大きな間違いで実際には16万円(ペア・税込)の価格帯に収まっている。仕上げも美しく、外観のマニアックさからTADのオーラも濃く感じられる。
仕上げと外観は価格以上だし、もしこれでTADの音が聞けるならこの価格帯のブックシェルフ型スピーカーは「全部食われてしまう」。そう予感させるほど第一印象は良かった。
しかし、ここは冷静になって音を聞かねばならない。「これはよい、良くあって欲しい」という思い込みを避ける目的もあって、最近の試聴で気に入ったドイツ製業務用モニターのMusikelectronicのME25と聞き比べることにした。
小型業務用モニター(コンソールモニター)という同じカテゴリーの製品で、設計がドイツと日本。実にアマチュアライクな作りの良さを感じさせたMusikelectronic ME25と、どこから見ても最新技術の粋を投入して作られているのが分かるTAD TSM-2201-LR、両者は是非ともガチンコで比較したい。そこでTSM-2201-LRの試聴は、ME25試聴テストと同環境で行うことにした。
パッシブ型モニター TSM-2201LR 生産完了 |
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ウォーミングアップ |
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今回組み合わせるアンプは、AIRBOW PM15S2/Master。癖のない自然な音だが、音楽の表現力が"濃い"のが特徴のプリメインアンプだ。
スピーカー・スタンドには、最近好んで使っているAcoustic-Design AD-35aを使った。このスタンドは本来Stirling Broadcast社のLS-3/5a専用として作られたものだが、価格が安い(メーカー希望小売価格¥75,000ペア・税別)にも関わらず仕上げが良く、さらにスタンドの底部に金色のウェイトが埋め込まれ、スタンド全体を4本のスパイクで支えられるように工夫されるなど、音質にも配慮が行き届いている。ウッディーな響きが心地よい、お薦めスピーカースタンドだ。天板の大きさはW190*D170とやや変則的だが、少しのはみ出しを我慢すればほとんどのブックシェルフ型スピーカーに使うことが出来る。このスタンドは、もっと注目されて良いと思われる商品の一つだ。 ウォーミングアップには、連続演奏が可能なAIRBOW NA7004/SpecialにiPod(iPod Touch/iPod Nano、音源はMP3/320bps)を組み合わせて行った。iPod+MP3が音源だと侮ってはいけない。このセットで聞く音楽は下手なCDを軽く上回るほど心地よいし、長時間演奏を続けなければならないウォーミングアップでは、iPodに収録した1000を優に超える楽曲を「ランダム(シャッフル)」に聞けるから、大変便利なのだ。また選曲を機械任せすることで、期待通りのソフトが演奏されることもあれば、期待を裏切られることもあり、好みによる評価の偏りも防止できる。 結局、出てくる音が気に入ってNA7004/Special+iPodをプレーヤーに丸二日TSM-2201-LRを聞いてしまった。感心させられたのは、「人の声(ボーカル)」の再現性が非常に高く声のニュアンスが非常に細やか(デリケート)に再現されることだ。以前TADのフルシステムを採用している京都・河原町のシネコンプレックスで「おくりびと」を見たとき、その暖かくヒューマンな音質に心底驚かされたのだが、TSM-2201-LRはその印象と完全に一致する。TSM-2201-LRから再現される細やかな中域のニュアンスは、これまでの国産スピーカーとは次元の異なる高いレベルに仕上がっている。 声に続いて魅力的なのが「ピアノの音」だ。グランドピアノが持つ「重さ」と「重厚な音色感」が実に見事に再現される。アタックの立ち上がりも早く、キーを叩く指使いが克明に伝わってくる。バイオリン、チェロ、コントラバスなどの弦楽器の音は、わずかに金属的だ。これはツィーターに採用されている金属振動板(ハード・ドーム・ツィーター)の影響だと思われる。詳しく後述するが、それは心地よい方向の色づけて決して不快なものではない。音の広がりは非常に優れている。 国産業務用モニター、特にこのクラスの製品は非常にライバルが多い。例を挙げたいが、TSM-2201-LR以外を貶めることになってしまうので、ここでは実名は上げない。しかし、価格をペア50万円程度にまで広げても国産品ではライバルが皆無とさえ感じるほどTSM-2201-LRの完成度は高いと私は感じる。どうしてこれほど良いスピーカーの情報が私の耳に届かなかったのだろうか?わたしの不勉強も災いしていると思うが、もっと早くこのスピーカーと出会いたかった。そう思わせる魅力がTSM-2201-LRにはある。 話は変わる。東京の「行列が出来る飲食店」に何度か言ったことがあるが、もう一度行きたいと思ったお店は皆無だ。オーディオ機器の評価も同様に感じる。あえてメーカーを特定することは避けるが、広告や露出の多いメーカーの製品は概して出来が悪いことが多い。当たり前だ。実力不足だからこそ売るために広告が必要なのだし、広告にかかるコストだけ製品は安く作られているから、価格に品質が伴わないのが当然なのだ。 オーディオも化粧品や、健康サプリメントも同じなのだろうか?TSM-2201-LRは、広告が少なく露出もない。そのために本当に良い商品なのに、まだほとんど売れていないようだ。その状況を見ていると、オーディオ業界は真剣にお客様のために良い商品を提供しようという姿勢があるのか、本当に疑わしく思う。だからこそ、逸品館はHPでの情報提供を強化し、ハイエンドショウなどに積極的に出展している。本来、それによる利益は情報提供者に還元されるべきだと思うが、実際にはお薦め商品が逸品館以外の店で売れることが少なくない。それでも、お客様の利益を考えれば、私はそれでよいと思っている。我慢ならないのは、同業者や出版社が逸品館の情報を流用しているにも関わらず、あたかも自分たちが情報提供主のような顔をしていることだ。以前はインバーター電源のアイデアをごっそりパクラれたこともある。私の話を一生懸命メモしていると思ったら、それをネタに無線と実験にインバーター電源の効用を延々と掲載したのだ。無論、著者は情報をパクった本人である。人の手柄の横取りが横行する、この業界にはモラルは存在しない。中国人のモラルは低いと言われるが、オーディオ業界のモラルはもっと低い。だから、くれぐれも安易に欺かれないよう注意して欲しいと願う。 私憤はこれくらいにして話を戻そう。私を驚かせた驚くべき中域のニュアンス再現性の高さを持つTSM-2201-LRだが、それでもその"濃さ"は、Musikelectronic ME25には及ばない。TADは「ジャスト リアル」だが、ME25は「トゥー マッチ」。ME25の中域の"濃さ"は、録音を超えて生々しい。古い録音(特にモノラル)やシンプルな録音(ライブなど)のソフトを鳴らしたら、Musikelectronic ME25に敵う小型スピーカーは存在しない。 他方、TSM-2201-LRの低域の反応の早さはME25を明らかに凌駕する。電子楽器系や新しい録音(デジタル録音)のソフトの再現性は、TSM-2201-LRがMusikelectronic ME25を上回る。全帯域の音の繋がりの良さや質感の統合性にも優れており、最高級のTADシステムを彷彿とさせる真にプロフェッショナルな仕上がりを感じさせる。 色づけの少なさ音色の調和性の高さを評価するPMCと比べるのであれば、やはりTSM-2201-LRが「ジャスト リアル」でPMCが「トゥー マッチ」だと思う。生演奏とほとんど違和感がなく、スピーカーの存在を感じさせないPMCに対し、TSM-2201-LRは「何らかの違和感」を常に感じさせる。しかし、「違和感」が見事に統合されているのでそれが不快ではない。むしろ、「スピーカーで音楽を聴いている」という安心感を抱かせる。特にもっぱらスピーカーで音楽を聴いている人に対してTSM-2201-LRは、「最高にナチュラル(違和感のない安心できる音)」に感じられるはずだ。ここでTADのホームページから、TSM-2201-LRの特徴を抜粋してみよう。 【主な特長】 1)
モニタースピーカーとして最良の形状を追求した"Σ(シグマ)"テクノロジー 2)
低音位相の遅れを最小限にし、音像や音のバランスを保つ密閉型キャビネットを採用 3)
左右方向の指向性と音離れを改善する振動板の凸形状「DECO*1」 4)
クリアでリニアニティに優れたスピーカーシステムを実現した「CBC」 5)
LFドライバーとHFドライバーを滑らかに繋ぎ、電荷の影響軽減までも考慮したネットワーク ※1
Diffusion Effectual Convexity by Olson 1)に関しては、非常に優れた音の広がり(どこに置いても音が自然に広がる)と、低域〜中域にエンクロージャーの共鳴による色づけが発生しないことから実感できる。 2)に関しては、スピードの速い金属ツィーターに遅れない素早い低域が得られることで実感できる。通常ウーファーのサイズが16cmを超えるとウーファーの高域が濁り、ツィーターの低域との繋がりに違和感が生じるのだが、TSM-2201-LRには一切それがない。20cmという比較的大型のウーファーを搭載しているにも関わらず、ウーファーとツィーターの音色の繋がりに違和感が発生しないのは驚異的ですらある。逆に密閉型というローエンドの再生周波数帯域に不利な形式を採用しているにも関わらず、十分な低域が得られているのは20cmという比較的大口径のウーファーを採用した効果だ(カタログ上のローエンドの再生周波数帯域は、TSM-2201-LRとME25で同一だが、聴感上はME25がTSM-2201-LRを圧倒的に上回ることは付け加えておきたい)。 3)に関しては、非常に良好な音の広がりに加え、若干ホーンロードがかかったような「特別な音速の早さ」からその効果が感じ取れる。TSM-2201-LRのツィーターとウーファーは、バッフルからわずかに奥まった場所に取り付けられているが、特殊な凸型の構造がユニット周辺部からの反射を見事にコントロールし、スピーカーの音離れの良さ、抜けの良さの向上を実現していると考えられる。非常に巧妙で頭の良い設計だ。 4)に関しては、クラスを大きく超える透明感(濁りの少なさ)から実感できる。 5)に関しても、クラスを大きく超える透明感に加え、ニュアンス再現性の細やかさからその優秀さが実感できる。 すでにCDを使った本格的な試聴テストに移る前に大方の結論を出してしまったが、それは間違いではない。同時にそれは、TSM-2201-LRに大きな感銘を受けた証拠でもある。国産からこれほど素晴らしいスピーカーが生まれるとは、想像さえしていなかったし、ましてやシネコンプレックスで感じたあの「感動」がたったペア20万円にも満たないTSM-2201-LRで再現されるとは思いもしなかった。TSM-2201-LRは日本が世界に誇れる、間違いなく素晴らしいスピーカーだ。 |
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音質テスト |
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最初に結論を述べてしまったが、Musikelectronic ME25と同じ環境で同じソフトをかけて「念のため」に音質をテストした。
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すでにTSM-2201-LRにはこれ以上ないほどの褒め言葉を捧げたので、ここではあえて褒めることはせずME25との比較でTSM-2201-LRの「粗探し」をしたいと思う。 カンターテドミノでTSM-2201-LRがME25に劣るのは、「音の広がり」と「低域の量感」だ。ME25ではリスニングルームが教会になったのでは?と思えるほど広大な音場空間とリッチな間接音の再現が実現した。リスニングルームそのものの「空気」が変わってしまったのだ。それに対しTSM-2201-LRの音場空間は小さく、スピーカーの周辺に音が広がるに留まる。もちろん、これはME25が出来過ぎなのであってTSM-2201-LRが正常(正解)だと言えるから心配はご無用だ。 価格の枠を超えコーラスの分離や再現性にも優れているが高域は少し硬く、金管楽器もわずかに強く耳障りだ。このあたりの質感演出の巧さではME25がTSM-2201-LRを凌駕する。耳で煮詰めたスピーカーと論理で仕上げたスピーカーの違いが音質の違いに出る。しかし、それはこの場合後者が前者に劣るという事ではない。 パイプオルガンの音は濁りが無く、澄み切って美しい。非常にニュートラルで正直な音を出すTSM-2201-LRだが、音楽は、明るく快活に再現する。TADらしい高精度さと有機的な温かさの「まとめ方」が見事で、ほのかに暖かくさわやかなその音を聞いていると心が軽くなる。この音ならオーディオファンも音楽ファンも納得させられるだろう。 一音が出た瞬間にME25との勝負は付いた。圧倒的な音速の早さ、圧倒的な高域のパワー感(芯の強さ)は、最新のマテリアルと最新の技術の粋を投入したTSM-2201-LRが圧勝だ。高域の強いエネルギーに中域の厚みと押し出し感が負けていない。これほど瞬発力があって抜群の切れ味を持つにも関わらず、エネルギーバランスが高域に偏らないのが素晴らしい。 シンセサイザーが生み出す独特のシャープな高域の鮮烈さが、ボーカルを妨げない。伴奏とボーカルが全く混じらず見事に分離し、伴奏は伴奏のボーカルはボーカルのニュアンスがきちんと再現される。あらゆる音が混濁しない分解能の高さは快感ですらある。 唯一残念なのは、低域の量感とエネルギー感がこの素晴らしい中〜高域に追いつかないことだが、スピーカーのサイズと密閉型という方式を考えればあきらめるしかないだろう。ROCKやPOPSを聞く場合には、レスポンスに優れるサブウーファーの助けがあれば完璧だ。 すでに掛けた2枚のソフトで中域温かさと厚み、ニュアンス再現の豊かさが分かったので、このソフトが上手く鳴るとある程度予想はしていた。しかし、実際の音はその予想を軽く超えた。もちろんME25の良い意味で過剰すぎるリアリティーには追いつかないが、モノラルで録音レンジのさほど広くないこのソフトをTSM-2201-LRは見事なまでのワイドレンジと高解像度で再現する。それでいながら現代的に無機質でメタリックな音にならないのが凄い。 ビリー・ホリデイの独特な声と、節回しの巧みさ。彼女にしか出せない、デリケートなニュアンスが実に見事に再現される。ミュートされたトランペットの音も実にそれらしく、ミュート(トランペットの消音器)の共振まできちんと再現される。ギターのテンションも上手く再現され、ピアノからも奏者のタッチが実に鮮やかに感じ取れる。元々低域があまり入っていない、このようなモノラルソースでは低域の再現性が不足することもなく、まるでレコードを聴いているかのように、とても心地よく音楽に浸ることが出来た。 |
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総合評価 |
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TSM-2201-LRは、間違いなく世界に誇れるスピーカーである。しかも、その価格は驚くほど安い。高価な製品が珍重されるのはオーディオの常であるが、近年に発売された100万円を大きく超える国産小型スピーカーの値付けに至っては、まったく冷静さを欠いているとしか思えない。そのスピーカーは確かに「悪い音」ではなく、音楽を心地よくリアルに再現する「スピーカーの一つ」であることに異論はない。まして初めての製品であれば、その技術力を褒めてあげたい。しかし、世界中の多くのスピーカーを聞いた経験があれば、即座に「その価格」に疑問を感じるはずだ。もちろん、オーディオのような趣味製品の価格の尺度は購入者が個人的に決めるものであり、外野がどうこう言う種類のものではないと常に論じているが、それでもあまりに度を超した「値付け」は見識者としてこれはどうかと思うことが少なくない。 それはともかく、TSM-2201-LRの音質と投入された目に見えないノウハウを含めた「すごさ」を考えれば、このスピーカーは「明らかに安すぎる=価格以上の価値を持つ」製品だとお解り頂けるだろう。TSM-2201-LRの完成度は多くのオーディオマニアの想像を大きく超えている。逆にその隙のなさ故に「面白くない」と感じる方もいらっしゃるかも知れない。むしろそれは当然の意見であると思うし、実際にそうかも知れないと思う。しかし、この価格でこれほど「隙」の無いスピーカーを作れと言われて、それが実現できるオーディオメーカーは、世界広といえどもTAD以外には存在しない。この音からは長いスピーカー作りの歴史と、卓越した製造技術の高さが感じられる。そしてその両方を持っているメーカーを、TAD以外は私は知らない。 飛び抜けてインテリジェンスが高く、完成度の高いモニタースピーカー。それがTSM-2201-LRに下した私の評価である。これは久しぶりに感銘を受けた、心からの尊敬に値する製品だ。 |
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2011年 3月 逸品館代表 清原 裕介 |
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