試聴装置
アンプ
AIRBOW PM15S2/Master
スピーカー
VIENNA ACOUSTICS T3G(Beethove
Concert Grand)
試聴ソフト
: Blue Note
For You (1曲目:Autumn Leaves)
: Jazz
Round Midnight Piano (14曲目:Danny Boy)
値の張る高級機のテストなので、D600は3日、K-01は24時間の十分なウォーミングアップを行いました。D600をいつもAIRBOW UX1SE/LTDを設置しているポジションに置いたため、UX1SE/LTDのみウォーミングアップなしで試聴を行っています。
最初に旭化成の32Bit-DACの新型を搭載したEsoteric K-01を聞きました。パラメーターのセッティングは、工場出荷状態のアップコンバート:オリジナル、デジタルフィルタ−:なしです。
一聴してハイビットDAC特有の音の隅々まで見通せるような高いS/N感と解像度の高さが感じられます。この「音」なら各方面での評価の高さにもうなずけます。居合わせた社員やEsotericのセールスも聞きましたが、音が細かいことに納得している様子です。
しかし、個人的には音色の表現が単調で、音の広がり(立体感)に乏しく感じました。初期のEsoteric高級機のように音が硬く、平面的で、金属的な冷たい、とまでは言いませんが、やはりどこか機械的(デジタルチック)で堅さを感じる音です。試聴機はエージングも完了し、ウォーミングアップも十分ですから、これはK-01本来の音と考えて良さそうです。
私だけ意見が異なり皆が納得していないようなので、プレーヤーをD600に換えました。するとどうでしょう?全く世界が変わりました。
奏でられる音色は生楽器のように色彩が濃く、低音の力感も一段と増加します。ウッドベースの音が平面的に出たK-01に比べ、D600では球面(丸い形)でベースが鳴ります。この暖かく柔らかなベースの鳴り方は、あたかも生楽器を聞いているような心地よさです。数分D600でCDを鳴らした後に再び感想を聞いたところ、低音が良くなった、音の広がりが良くなった、というところまでは私と評価が同じでしたが、高音はK-01の方がくっきりしていた、細部の解像度もK-01の方が高かったと、意見が割れました。
そこでK-01とD600の違いをより明確に説明するため、ソフトをモノラル録音のJAZZに変えました。このソフトは録音が古いため、マスターテープのヒスノイズがかなり盛大に入っています。マスターテープ(オープンリール)のヒスノイズを実際に聞いたことがある方なら分かっていただけると思うのですが、テープのヒスノイズは楽器の音と分離して空間を漂い、演奏を聴く邪魔になりません。それは「ヒスノイズと楽器の音色」が全く違うからです。人間の聴覚には「カクテルパーディオ効果」と呼ばれる能力があって、「必要な音(演奏)」と「不必要な音(ヒスノイズ)」を分離し、「必要な音」だけを聞き取る能力があります。CDが正確に再生されれば、ヒスノイズは脳が分離し、演奏を聴くとき全く邪魔になりません。
そこで、このヒスノイズの音をK-01とD600で比べました。
K-01ではヒスノイズはデジタルチックな堅い音で耳障りです。演奏が始まっても、ずっとその音が耳に付きます。これは、楽器の音とヒスノイズが明確に鳴らし分けられていない証拠です。スペック追求のオーディオ機器にありがちな、「古くて録音の悪音のCDを嫌々聞いている」感じがします。これでは名戦争が台無しです。
K-01に限らず最新のCDプレーヤーで古録音のソフトを聞くと「録音が古くて嫌な感じ」を覚えることがありますが、これも同じで「音色の再現」がきちんとできていない証拠です。最新の測定器を使えば「音」は相当詳細に測定分析できます。しかし、「音色」は測定器では定量的に分析できません。そのため「オーディオ機器の音はスペックでは計れない」のです。
しかし、プレーヤーをD600に変えるとヒスノイズの音が一変します。ノイズのエッジが丸く、音が柔らかくなります。ノイズだけ聞いていても心地よく感じるほど暖かいヒスノイズの音は、演奏を聴くのに全く邪魔になりません。なぜなら楽器の音のエッジは鋭く、ヒスノイズの音のエッジは丸く聞こえるので、脳が容易にそれぞれを分離できるからです。
もう少し詳しく説明しましょう。ヒスノイズの色は全帯域で均一なエネルギーパターンを持っています。そのため明確な倍音構造(エネルギーパターン)を持つ楽器の音とは完全に異質で脳が「違う音」と認識し排除するため、楽音を聞く時に妨げになりません。言い換えるなら景色を見るときに「透明なガラス」で遮っても、その識別が阻害されないのと同じです。
D600でヒスノイズは透明なガラスとして再現されます。まさにマスターテープを聞いているようなイメージで、録音の古さは感じさせても、それが嫌な感じにならず「古くてすばらしい演奏の記録を聞いている」気分です。
これに対しK-01はヒスノイズが楽器の音と分離せず、演奏(楽音)に常にヒスノイズが絡みつき耳障りです。ガラスが透明から磨りガラスに変わったイメージで、その差は雲泥と言っていいほどの大きさです。
曲が進むとハイハットの音が入りますが、K-01はブリキをたたいているような単調で薄っぺらい音、D600は本物のシンバルを聞いているような厚みと変化に富む音が鳴ります。ここに至ると、全員が両機の「楽音の再現性の違い」を認識します。
K-01は解像度が高いですが、音色が単調で楽器の良さや演奏のニュアンスの再現が乏しいのです。D600は全くその逆で音色の再現性や暖かさ、音楽のニュアンスの再現性に富み音楽に引き込まれます。
では、その原因は?
人間は音の出始めの一瞬(アタック)で音の種類を聞き分けます。演奏を録音したテープを逆回転させると、どんな楽器の音もまるで「オルガン」のようにもやもやした音になってしまうのでそれがわかります。つまり、D600は音の出始めの再現性に優れK-01はその部分に問題があるため、今回のような結果になったと考えられます。
試聴テストの結果は、このように「デジタルを極めたサウンドのK-01(そのため従来から感じているデジタルの悪癖も持っている)」と「アナログを彷彿とさせるD600(デジタルの悪癖と決別した新しい世代のデジタルサウンドに仕上がっている)」と完全に分かれてしまいました。
実はK-01の開発段階でK-01が搭載するDACの銘柄が旭化成の32Bitであると聞いたときから、この結果を予想していました。なぜなら、旭化成の32Bit-DACを搭載した製品には共通の「音色が単調でモノクロームの音を聞いているような印象」があったからです。「最新のデバイスが必ずしも音が良いとは限らない」、「スペックを前面に押し出すデバイスは、たいていの場合音が悪い(なぜなら開発する人間がスペックを信仰している=音がわかっていないことが多い)のです。経験にもとずくこの悪い予感は、残念ながら的中してしまいました。
しかしEsotericの名誉のために付け加えますが、データーやで搭載デバイスが「売り上げ」に直結するオーディオ機器(まるで家電みたいだ!)の世界では、最新のデバイスを搭載しないと「購入検討段階」で振り落とされますから、Esotericが旭化成のDACを搭載していることは必然であり、避けられないことです。責められるべきはEsotericの設計陣ではなく、「スペック信仰を根付かせたメディアと評論家」です。彼らの力がこの業界に及ばなくならない限り、オーディオの健全な発展はあり得ません。
実は開発段階でもEsotericに旭化成のDACを使わない方がよいと進言したのですが、時はすでに遅く戻れないところまで開発が進んでいました。しかしその代わりではありませんが、同時にお願いをした「10MHzのワードクロック入力」に対応して頂けたのは、大変ありがたく思っています(その理由は後ほど説明します)。
では、K-01の音質をさらに向上させる、解決法はないのでしょうか?
私はAIRBOWというオリジナル機器の音決めをしていますが、同じ旭化成DACを搭載するD07(K-01が搭載するのは、D07とは異なる旭化成DACの新型上級モデル)のAIRBOWバージョンを作った経験から「デジタルフィルターの設定を変える」とアタックの再現性が高められることを知っています。今回のテストでは「内部の改造」は許されませんから、DACの動作パラメーターのセッティングを変えてK-01の音を良くすることにチャレンジしました。
最初にデジタルフィルターのパラメーターを変えて音を聞き比べました。最も良いと感じた「FIR2」です。
設定を変更して、もう一度ビルエバンスを聞きました。D600には及びませんが、その音はグッと良くなります。単調だった音色の表現が改善され、色彩が濃くなります。シンバルも厚みを増し、ブラスらしい輝きのある音色に変化しました。気になっていたウッドベースの音の出も、平面的ではなく、球面に近づきます。
実は「アタックの再現性を高める秘策」はもう一つあります。それは外部から精度の高い(音の良い)ワードクロックを入力することです。現在入手可能な最も精度の高いクロックジェネレーターは「ルビジウム」を搭載した製品です。しかし、これらの製品が出力する「クロックの周波数は10MHz」で、オーディオ用のワードクロックとは周波数が全く異なります。そのため10MHzのクロックを入力するには、10MHzの入力を備えるオーディオ機器用のワードクロックジェネレーターがさらに必要でした。しかし、K-01のように製品が10MHzのクロックに対応していれば、10MHzを出力する高精度のクロックジェネレーターをダイレクトに接続できます。10MHzのダイレクト入力を可能にしたK-01ならそれが可能です。これが私がK-01に10MHzの入力を備えて欲しいとお願いした理由なのです。
Antelope Audio OCX
今回は手元に10MHz出力のクロックジェネレーターがなかったため、逸品館お薦めのクロックジェネレーターAntelope
Audio OCXを繋いで音の変化を確認しました。
高精度クロックジェネレーターの接続により、K-01の音質はさらに有機的になり、立派にお薦めできるプレーヤーという評価に変わります。居合わせた一同も納得のサウンドになりました。価格もD600の半額を超える程度ですし、様々な機能(USB入力)も装備されていることを合わせて考えれば、K-01は十分魅力的なプレーヤーだと評価できます。
+ Antelope Audio OCX
最後にAIRBOWのフラッグシップ、UX1SE/LTDにAntelope
AudioのOCXを接続し聞き比べを行いました。
UX1SE/LTDの搭載するDACは24biTですが、それでも32bitを搭載するK-01よりも解像度感はもわずかに高く、細かい音まではっきりと聞こえます。音色の色彩も豊富で、音が色っぽく音楽的な表現力にも富んでいます。シルキーで細やかな中高域の再現性は、3機種中トップと言って差し支えないでしょう。
しかし中低音の厚みは、残念ながらD600には及びません。楽器の色彩もD600と比べると少し薄く感じられます。ビルエバンスのピアノの音色を例に挙げて比べると、高級ピアノらしいゴージャスな音色を完全に再現するのがD600で、音質がやや軽く、きらびやかな音色で再現するのがUX1SE/LTDです。ベーゼンドルファーとスタインウェイの違いのようです。好みもありますが、私はD600の濃い音色が良いと感じました。しかし、この2機種に比べると工場出荷状態のK-01のピアノは、まるで子供用のおもちゃのように薄っぺらい音です。デジタルフィルターの設定を変えOCXを加えると音はかなり良くなりますが、それでもKAWAIKAかYAMAHAの国産の上級ピアノのような音です。比べる相手が悪いのですが、K-01は先の2機種に比べるとピアノの質が少し落ちて聞こえます。
音色の比較はこのような感じです。では、ピアノのアタック感の再現性はどのように違うでしょう?
ピアノのタッチは3機種ともきちんと再現されます。K-01は細かいですが、ピアノの音色が単調です。D600はK-01やUX1SE/LTDに比べると音色は濃いですが、アタックがやや不鮮明です(そういうところもアナログ的)。ハンマーが弦に当たった瞬間の音の変化を最も克明に再現し、音色の変化もリニアに感じられたのはUX1SE/LTDでした。もちろん、そうでなければわざわざAIRBOWを作る意味はありません。