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JBL社は1940年代にJames
Bullough Lansingが設立した、スピーカーメーカーです。当時はまだ大出力トランジスターアンプが発明されていなかったため、低い真空管アンプの出力で大音量を得るために能率の高いスピーカーが必要とされていました。そのためほとんどのスピーカーは中高域にホーン型ユニットを採用し、ウーファーも能率を優先し軽量なコーン紙が採用されていました。JBLは初めての製品として、高能率38センチフルレンジユニットD130を発表し、その後
D131、D208、175ドライバーといった JBL社初期の名機とされるユニット群を発売しました。
1950年代に入ると、コンプレッションドライバー+ホーン、音響レンズ、リングラジエーターを採用したスピーカーシステムを映画館、シアター等プロ用スピーカーシステムとして販売し、スピーカーメーカーとしての地位を確立させました。同時期に家庭用スピーカーとして発売されたモデルには、「ハーツフィールド」や「パラゴン」があります。「パラゴン」は、木工職人のリタイヤによって作れなくなる1988年の生産中止まで約30年間という長きに渡り生産を継続しました。初期に作られたJBLのスピーカーはすべて「ホーン型」であったため、現在もホーン型と言えばJBLを思い浮かべるほど、ホーンとJBLは切っても切れない関係にあります。
JBLの社名は創始者の「James Bullough Lansing」のイニシャルです。James
Bullough Lansingはアルテック社の副社長を務めるほど優れた技術者で、JBL社の名前を世界に知らしめたD130や175は彼の設計によるものです。古くからのJBLファンは、JBLのことを「ジム・ラン」と呼ぶことがありますが、この呼称は「James
Bullough Lansing/ジェームズ・ビー・ランシング」に由来します。しかし、初期のJBL社の経営状態は決して良好ではなかったためJames
Bullough Lansingは、1949年に自殺してしまいました。
従って「ハーツフィールド」や「パラゴン」以降に作られたJBL社の製品は、創始者のJames
Bullough Lansingの設計ではなくなっています。
日本でJBLの名前を飛躍的に有名にしたのは、「ステレオサウンド誌」が試聴室に設置したスタジオモニター「4343」です。「4343」は著名な評論家が絶賛したことからも、その地位を不動のものとしました。しかし、James
Bullough Lansingが設計した初期のユニットを使ったスピーカーのサウンドは優しく繊細で、JBLの代表モデルスタジオモニター・シリーズの音質は全く異なります。
「4343」は大ヒットし、その後長い間「4300シリーズのスタジオモニター」はJBLの看板モデルでした。評価の高さとは裏腹に4300シリーズのモニターには、多くの欠点があり「鳴らす(いい音を出す)」ことが難しいスピーカーでもありましたが、この「難しさ」がオーディオファンの「やる気」を煽ったことも間違いありません。1970-1980年当時の日本のオーディオ市場の代表的スピーカーと言えば、JBLのモニターシリーズとTANNOYのビンテッジシリーズですが、この二つのモデルは「日本国内専用モデル」といっても過言ではないほど、日本市場でのみ大ヒットした製品だということは、案外知られていないようです。インターネットがなかった時代「名機」は、雑誌などの情報操作により生み出されていました。同様に1980-1990年に日本で大ヒットした、BOSEも日本市場でのみ知名度の高いブランドであったこともあまり知られていないようです。
個人的には4333(アルニコ/フェライト)から4344を経てK2-7500/9500に強い思い入れを持ち愛用していたことがあります。現在の逸品館3号館のメインスピーカーは、PMC
BB5とTANNOY Kingdom Royalですが、それ以前はK2-7500を真空管マルチアンプ(チャンネルデバイダーも真空管)で鳴らしていました。K2-7500の音は、今でも忘れがたい素晴らしいものでした。
しかし、アクリルホーンを使ったK2以降のJBLトップモデルには、昔ほどの強烈な魅力が感じられなくなりました。また、スタジオモニターシリーズも「過去の亡霊」にとりつかれたように長期間デザインが変えないことで、現在のスピーカーとしては設計があまりにも古くなりすぎ、その間に進歩した他メーカーのスピーカーと比べて音質的なメリットも失われました。そういう経緯から、逸品館では最近ほとんどJBL製品を扱っていません。しかし、私のハイエンドオーディオへの水先案内人役を果たしてくれた、「オレンジサウンドのJBL」を忘れたことはなく、インターナショナル・オーディショウでもJBLのブースは常に熱心に見学しています。そんな私のアンテナに“引っかかった”のが2011年10月発売の「Studio
5 Series」です。
Studio
5 Seriesが従来のような「復刻モデル」ではなく最新の設計思想で作られていることは、その「外観」から読み取れます。現代のスピーカーの多くは「ラウンドバッフル(キャビネット前面の角が丸くなっている形状)」を採用しています。これはユニットから出た音(特に高音)がキャビネットの角で反射して歪みを発生し、自然な音に広がりと高音の滑らかさを阻害することを防止するためです。しかし、青いバッフルのJBLスタジオモニターシリーズの低価格品のキャビネットは、縁が一段高くなっています。この形状だと高音はキャビネットの縁で強く反射し、音の広がりと高音のスムーズさを損なわれます。それを放置しても従来の「売れるデザイン」にこだわることが、納得できなかったのです(タンノイのビンテッジシリーズにも縁がありますが、TANNOYのホーンは指向性が強いため縁の悪影響をほとんど受けません)。
しかし、Studio 5 Seriesのデザインは縁を取り去ったばかりか、高音がスムーズに広がるようにグリルとキャビネットの段差までなくし、さらにグリルを外した場合はキャビネットのとの段差を埋めるための「ホーンプレート」を付属するほどの念の入れようです。外観からしてJBLの「本気」が伝わってきます。
筐体を支える脚にも工夫があります。スパイクを差し込む樹脂の先端が平らになっていますから、スパイクを付けない場合(写真)でも床を傷つけずスピーカーを設置できます。スパイクを使うときには、写真の黒い樹脂の部分にすバイクをねじ込んで使用します。
この優れたStudio 5 Seriesの設計には、JBL社チーフエンジニアにして現代のフラグシップEVERESTやK2シリーズの生みの親であるグレッグ・ティンバース氏が携わっています。さらに卓越したウーファー開発で知られるジェリー・モロー氏の参画により、「新素材ダイアフラム採用のネオジム・コンプレッションドライバー」や「新開発PolyPlasウーファーコーン」を新設計・搭載するなど、価格を超える力作に仕上げられています。
試聴機材
+ iPod Touch(MP3/320bps)AIRBOW NA7004/Special
Come away with me Norah Jones
Studio 580CHの試聴には、ホーン型アンプに芳醇な真空管アンプを組み合わせて「Vintage sound」を鳴らすため、プレーヤーに「アナログテープのような音のする」iPodとAIRBOW NA7004/Special の組み合わせを選び、アンプには開発が完了した(発売は2012年4月頃)AIRBOW TRV-88SER Vintageを使用しました。
Studio 580CH メーカー希望小売価格 ¥115,000(税込) |
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Studio 5 Series 一気試聴テスト |
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2011 年末に聞くことができた「Studio 580CH」は、私の想像を大きく超える高音質に仕上がっていました。しかし、シリーズ展開されているスピーカーは、必ずしも「価格=音質」という簡単な方程式でその良否は決まりません。判で押したような同じデザインの採用は見た目には優れていますが、各々の音質を最適化するためには大きな障害となるからです。ラインナップの一台が優れているからと言って、モデルすべてがよい仕上がりだとは限りませんし、装置とのマッチングやソフトとの相性、音楽のジャンルによって必ずしも「高いモデルが廉価モデルよりも良い」とも限りません。 年末テストの結果がラインナップ全モデルに共通するのか?あるいは、580CHだけが飛び抜けて良かったのか?確認のためJBL輸入代理店の「ハーマン・インターナショナル」の協力を得て、Studio 5 Seriesを一同に揃えすべてを一度に比較試聴する機会を設けることにしました。 ただし、発売されたばかりの人気商品と言うこともあって拝借できる時間が限られていたために時間がかかる詳細な採点は行わず、それぞれのスピーカーの特徴を文章でご説明するという方法で評価させて頂きました。 試聴には前回の580CHのテストと同じ機材を使用し、試聴はサランネットを付けたままで行っています。ただし、580CHのサランネットのあるなしによる変化が、ラインナップ全モデルに共通かどうかを確認するため、モデルによってはサランネットのあるなしを聞き比べてみました。 試聴機材 + iPod Touch(MP3/320bps)AIRBOW NA7004/Special AIRBOW TRV-88SER Vintage (2012年春頃発売予定 ※外観はブラックになり、真空管など細部が変わる予定です)
Studio 5 Series 総合評価 シリーズ化されるスピーカーは形骸的な製品が多い中で、Studio 5 Seriesはそれぞれに明確な個性が与えられた完成度の高い製品でした。 530CHは人間が敏感に聞こえる部分に音を集中させ、中音帯域に音楽の表現力を凝縮しています。2Wayらしい繋がり感の良い自然な感じとホーンらしい表現力の高さが上手くマッチし、ソフトの粗を暴かず音楽を艶っぽく豊かに鳴らします。シリーズ中最もコストパフォーマンスを高く感じさせるモデルです。 570CHは530CHの豊かな表現力をベースにエネルギー帯域をわずかに上下に拡大した、シリーズ中最も使いやすいモデルに仕上がっています。ほとんどのジャンルの音楽を癖無く、満足度の高い音質で再現します。真空管アンプとのマッチングにも優れ、組み合わせるアンプを選ばずに十分な仕事をこなします。 580CHは570CHの高音をそのままに、低音を充実させたモデルです。ウーファーのサイズが大型化したため、中域がわずかに薄くなっていますが特に大きな問題ではありません。サイズを遙かに超える豊かな低音は、POPSやROCKあるいはフュージョンのような、電気楽器が使われる新しい録音のソフトによくマッチします。組み合わせるアンプには、低域を引き締めるためにトランジスター方式の製品をお薦めします。 590CHは低価格で驚くべき低音を実現したモデルです。さすがにこの広帯域を2Wayで仕上げるのには無理があり、中域のエネルギーが明らかに薄くなっています。そのためボーカル系のソフトでは、音が硬く感じられたり、艶やかさが少なく感じることがあるかも知れません。しかし、空気の揺れまでが再現されているのでは?と感じるほどの重低音は、なかなか聞くことができないものです。ホールの空気感を再現する590CHは、交響曲の再生に抜群の能力を発揮します。組み合わせるアンプには、高域を柔らかくするために真空管方式をお薦めします。 シリーズ全体に通じる特徴として、サランネットを付けた状態ではバランスが良く柔らかい音が得られ、サランネットを外すと高音の切れ味と見通しが向上する傾向があります。また、付属のプレートは絶対に付けなければいけないというものではなく、プレートを付けることで高音が強調されますから、好みやソフトとのマッチングで使い分けてください。 Studio 5 Seriesはサイズの割に低価格なので、同じ予算で他メーカーよりもサイズの大きなモデルを手に入れられます。しかし、サイズが大きくなるに伴ってスピーカーに近い場所では音が混ざりきらずに上手く鳴りません。安いからと言ってスピーカーサイズを欲張ると失敗することがあるので、注意してください。 |
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2011年 12月ー2012年 1月 清原 裕介 |
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